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熾烈化する水ビジネス戦線―日本の水が世界市場を勝ち抜くために―

日本の水が危ない⑦

水市場が活発化するなか、参入に意欲をもつ民間企業は世界全体で水ビジネスの機運を高めることに余念がないが、それは水ビジネスの問題に煙幕を張る効果がある。『日本の「水」が危ない』六辻彰二 著より

【日本市場の魅力とは】

 

 それでは、活発化する世界の水ビジネスにとって、「水鎖国」が解けた日本は、どのような位置付けになるのだろうか。先述のように、水ビジネスが活発化しているのは、主にアジア、ラテンアメリカ、中東だ。だとすると、いかに経済規模が世界第3位で、しかもこれまで水道が公営だった「未開拓地」だったとしても、人口減少が続く日本に、水メジャーは大きな関心をもっていないのだろうか。

 そうとはいえない。むしろ、水メジャーからみた日本には、開発途上国にはない魅力がある。そこには、大きく三つの理由がある。

 第一に、日本の成熟した水道システムそのものだ。これを説明するため、まず水市場の構造について簡単に確認しよう。

 水ビジネスには上下水道関連の他、農業用水関連(灌かん漑がい設備など)、ボトル詰めウォーター、家庭用水道設備などが含まれるが、単純化するため、ここでは上下水道に限定して話を進める。上下水道関連ビジネスには、大きく三つの部分がある。水道管の設置などの管網敷設、下水処理場の整備などのプラント開発、そして水道事業そのものの運営である。

 このうち、市場規模が最も大きいのは水道経営だ。日本総研の調査によると、2013年段階の世界全体で上下水道関連ビジネスの市場規模は50兆3000億円だったが、このうち水道経営は30兆9000億円で、全体の61・4%を占めた(管網敷設は11兆2000億円、プラント開発は8兆2000億円)。つまり、水メジャーにとっては、新たな設備の導入や設備の更新より、経営の方が旨味は大きいといえる。

 

 この点で、日本は開発途上国と異なる。アジア、ラテンアメリカ、中東などでの水ビジネスでは、水道を新たに普及させるBOTやDBOも多くなるが、日本では水道システムがほぼ完成している。つまり、コンセッション方式に基づいて日本の水市場に参入する民間事業者は、管路敷設やプラント建設よりむしろ、利益を得やすい水道経営がビジネスの中心になるとみられる。その意味で、水メジャーからみて日本には、開発途上国とは異なる意味で優良案件が多いといえる。

 第二に、水を多く消費する日本の生活習慣も、水メジャーを惹きつける条件になる。日本人ほど風呂好きの国民も少ない。また、多くの日本人が当たり前に思っている温水洗浄便座も世界レベルでは珍しいもので、その普及はトイレでの水利用も増やす一因になっている。その結果、一人当たりの水消費額で日本は世界屈指の水準にある。

KEYWORDS:

『日本の「水」が危ない』
著者:六辻彰二

 

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 昨年12月に水道事業を民営化する「水道法改正案」が成立した。
 ところが、すでに、世界各国では水道事業を民営化し、水道水が安全に飲めなくなったり、水道料金の高騰が問題になり、再び公営化に戻す潮流となっているのも事実。

 なのになぜ、逆流する法改正が行われるのか。
 水道事業民営化後に起こった世界各国の事例から、日本が水道法改正する真意、さらにその後、待ち受ける日本の水に起こることをシミュレート。

 

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六辻彰二

むつじしょうじ

国際政治学者

1972年生まれ。博士(国際関係)。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書、共著の他に論文多数。政治哲学を扱ったファンタジー小説『佐門准教授と12人の政治哲学者―ソロモンの悪魔が仕組んだ政治哲学ゼミ』(iOS向けアプリ/Kindle)で新境地を開拓。Yahoo! ニュース「個人」オーサー。NEWSWEEK日本版コラムニスト。


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